臨床研究の種類

臨床研究にはどのような種類がありますか?

患者さんにご協力をお願いする内容の違いから、臨床研究は大きく2つに分けることができます。すなわち、患者さんに直接研究にご参加いただく「臨床試験」と、検査データや血液サンプルの提供などをお願いする「観察研究」です。また、最先端の基礎医学研究の成果を実際の医療へ応用するために行われる研究として、「橋渡し研究(トランスレーショナルリサーチ)」と呼ばれる種類の臨床研究があります。

「臨床試験」とは何ですか?

臨床試験とは、薬や医療機器など、病気の予防・診断・治療に関わるいろいろな医療手段について、その有効性を確かめたり、複数の治療方法の優劣を見極めたりすることを主目的として行われる臨床研究です。

臨床試験にご協力いただく場合、患者さんは被験者として実際に試験対象となる薬や治療方法による医療を経験され、研究に密接に関わっていただくことになります。

臨床試験は、さらに新しい薬の有効性確認を目的とする「治験」と、これ以外のさまざまな目的によって行われる「自主臨床試験」の2つに分けることができます。それぞれについては、以下の項目をご覧下さい。

「治験」とは何ですか?

治験とは、すぐれた新薬候補として期待される薬(治験薬)や医療機器について、それらを実際に病気の治療に用いた際の効果と安全性を確かめ、裏付けとなる科学的なデータを集めて、厚生労働省の承認を得て広く保険制度の下で使えるようにするための臨床試験です。

新薬の治験は通常、まず治験薬の安全性や体の中でのふるまいを調べ(第I相試験)、次に治療効果や副作用の出方などから最適と思われる使用方法や使用量を決めて(第II相試験)、最後に実際の医療に近い形で用いて有効性を調べる(第III相試験)といった順序で行われます。新薬が実際の医療で使えるようになるまでには、これら複数回の治験の全てで優れた結果が確認されることが必要なのです。

新薬の効果や安全性を科学的かつ倫理的な方法で確かめるためには、治験の計画や実施方法について高い水準の配慮と注意が必要です。そのため、治験の実施に関しては、臨床研究の中でも特に法律や諸規則など厳しいルールが定められています。

治験の実施には長い時間がかかるだけでなく、高度な専門的知識や人手、コストが必要となります。そのため治験は従来、製薬企業が中心となって行われ るものがほとんどでした。しかし近年、企業ではなく医師が中心となって、医療上特に重要性の高い新薬の治験が行われるケースが見られるようになりました。 これらは治験の中でも、特に「医師主導治験」と呼ばれます。

「自主臨床試験」とは何ですか?

自主臨床試験とは、病気の予防・診断・治療について、患者さんご本人をはじめ同じ病気に苦しんでおられる世界中の方々、あるいは将来苦しむ可能性のある方々のために、より優れた医療の実現に役立つ確かな医学知識を得ることを目的として行われる臨床試験です。医師および企業の自らの発案によって行われる臨床試験である点が、新薬の承認審査のため法律(薬事法) の求めによって行われる「治験」と異なりところですが、実際に実施される試験の方法や内容には似通った点が多く見られます。

例えば、すでに実際の医療に使われている薬であっても、長期間使用した場合の効果や副作用は、新薬としての発売時点では充分にわかっていないことがあります。また、ある病気に現在いくつもの治療法が行われている場合、本当はどちらがより優れた結果につながるのか、はっきりした結論を得ることは大切です。

一般診療や基礎医学研究から得られたヒントや疑問を、より優れた医療に活用できる確かな情報(「臨床的エビデンス」といいます)とするため、患者さんにご協力いただいて行われる臨床研究、それが自主臨床試験です。

「観察研究」とは何ですか?

観察研究とは、患者さんに血液・尿などのサンプルや診療記録(カルテや検査結果など)のデータをご提供頂いたり、アンケートや定期的調査へのご協力をお願いすることによって、病気の予防・診断・治療に関する情報を集め、これを詳しく調べて、医療の改善につながる新たな医学知識を発見するための研究です。

観察研究にご協力いただく患者さんには、プライバシーの保護に充分配慮した上で、病気の性質や治療に関して一定の情報をご提供いただき、これを研究者がさまざまな角度から研究します。たとえば、有名な喫煙と肺がんの発症率の関係は、観察研究で明らかにされたものです。

観察研究によって突き止められた新しい医学的知識は、直ちに実際の医療に応用されることもあれば、次の段階へと研究を進めるヒントとなることもあります。いずれの場合でも、研究の成果は学術誌への論文発表や学会などでの発表を通じて公開され、広く日本や世界の医療従事者に共有されて、患者さんの医療の向上につながります。

「橋渡し研究(トランスレーショナルリサーチ)」とは何ですか?

橋渡し研究とは、主に基礎研究の分野で生まれた新しい医学知識や革新的技術を、実際に病気の予防・診断・治療に生かすべく実用化するために、患者さ んにご協力いただいて行う臨床研究をいいます。橋渡し研究は、研究対象となる新しい知識や技術に応じて、臨床試験や観察研究のほか、さまざまな形で行われます。

私たちはしばしば新聞やテレビなどのマスメディアで、「~病の原因となる遺伝子を解明」、「~病の予防につながる新発見」、「~病の新しい診断方法を開発」、「~病に新たな治療法の可能性」といった、とても勇気づけられるニュースをしばしば目にします。

そうした基礎医学研究の成果は、長い年月にわたる研究活動の成果として生まれたものがほとんどですが、しかしそれらが実際に医療の現場において用いられるためには、その有効性と安全性を科学的に、かつ一歩ずつ確実に確かめることが不可欠です。橋渡し研究とは、優れた基礎医学研究の成果を新しい医療手段としての臨床応用へとつなげるために必要な、実験室から診察室に「橋を渡す」ための臨床研究です。