臨床研究企画推進部門

臨床研究の現場から

慶應義塾大学病院臨床研究推進センターでは、2019年7月に「臨床研究企画推進部門」が新設されました。新シリーズ「CTRにおけるチーム機能」座談会の第3弾として、臨床研究企画推進部門の皆様をお招きし、新部門の設立の経緯や活動内容、今後の展望等につきお話をお伺いしました。

Profile

慶應義塾大学病院・臨床研究推進センター
臨床研究企画推進部門

三浦 公嗣 教授

部門長
三浦 公嗣 教授

松嶋 由紀子 特任講師

松嶋 由紀子 特任講師

萩村 一人 特任講師

萩村 一人 特任講師

長井 祐志 特任助教

長井 祐志 特任助教

堂本 英樹 特任助教

堂本 英樹 特任助教

土濱 あす香 研究員

土濱 あす香 研究員

広報部門

大村 光代 特任講師

トランスレーショナルリサーチ部門 
兼 広報部門長
大村 光代 特任講師

臨床研究企画推進部門の新設によりより早く研究に着手

大村: 一昨年から始めたこの座談会シリーズは今回3回目となります。今回は新型コロナウイルス感染症の影響でオンラインでの開催と致しました。
本日の座談会では、2年前に設立された「臨床研究企画推進部門」がどのような活動をしているのか、また臨床研究推進センター(CTR)内の協力体制について、学内外の皆様にご紹介したいと考えています。
まず、臨床研究企画推進部門の設立に関して、部門長の三浦先生から設立の経緯、背景、メンバーについてご紹介いただけますか

三浦: 臨床研究を巡っては、国内外、また学内外で、さまざまな動きが急速に進んでいます。学内で言えば、2016年には大学病院が臨床研究の中心的な役割を担う「臨床研究中核病院」の承認を得ました。臨床研究中核病院に求められるのは、学内の研究支援にとどまらず、日本全体の臨床研究を速やかに進め、しかもよい結果をもたらすことです。
ただ、臨床研究に対する重要性は指摘されるものの、必ずしも臨床研究に追い風が吹いているとは言い切れません。その端的な例が、2018年4月に施行された「臨床研究法」です。この法律では、過去に生じた臨床研究の不適正事案を踏まえ、臨床研究の実施に法的規制が課されることになりました。特に利益相反などに対する取り決めが定められていています。従来の人・医学系指針は、指針とあるように、医療界が自らそれを守っていくという規範だったわけですが、臨床研究法では罰則まで設けられています。
そういう環境の中で慶應義塾大学病院は、医師主導治験をはじめ、臨床研究中核病院としてクリアしなければならない数値要件に関して他の大学と同様、右肩上がりに臨床研究が進んでいるとはとても言えない状況です。
私は、臨床研究法ができた当時、認定臨床研究審査委員会、その前は倫理委員会にも関与していました。そこでの経験ですが、委員会に提出されるさまざまな提案書を拝見していると、申請前のブラッシュアップが不足しており、最終的な審査に時間がかかってしまい、なかなか研究に着手できないという例が多く見受けられました。臨床研究の専門家が事前に提案内容を確認し、より完成度の高いプロポーザルを提出することができれば、より早く研究に着手できるはず。そのようなことから、この臨床研究企画推進部門の設置を提案しました。
幸い関係者の皆様のご理解を得ることができ、本部門は2019年7月に設置され、さまざまな臨床研究に関与してきたベテラン中のベテランがメンバーとして集まってくださいました。ただし、多くの方が他部門との兼務という形を取らざるを得ない現状ではありますが。

臨床研究の活性化に向けてCTRの中核的役割を担う

三浦: 昨年以降、新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、臨床研究はますます進みにくくなっています。患者さん自身も病院にはなかなか来にくい。そういう中でも、臨床研究を活性化していく必要があるという観点から、学内の若手の医師や研究者の方たちに集まっていただいて、「臨床研究活性化プロジェクト」を立ち上げました。その事務局を担っているのが臨床研究企画推進部門です。
先般、新型コロナ治療に関する治験に対し迅速な遂行を担った方々に対して、病院長による表彰が行われましたが、そうした舞台を作ったのもこのプロジェクトの提案がもとになっております。そういう意味では、慶應義塾大学病院やCTRの中核的な役割を担いつつあるといえます。

支援経験に基づいて行われるコンサルティング業務

大村: ありがとうございます。
次にこの部門の専任である堂本さんと土濱さんに、主な業務を伺っていきたいと思います。

堂本: 私は、元は製薬メーカーにおりまして、昨年の8月にこの部門に参りました。今は、主に研究者の先生方からの問い合わせに対応したり、倫理委員会に申請された案件のプロトコルのレビューを行っております。
着任当初、メーカーでは医薬品等の有効性および安全性の評価しか行っていなかったため、アカデミアでは研究のパターンが多岐にわたることに驚きました。また、共同研究でもさまざまな連携があるため、理解するのに非常に苦労しました。

土濱: 私は、昨年の10月にこちらの部門に着任いたしました。2年前までは倫理委員会事務局におりましたが、その当時から先生方より「臨床研究を申請する前に、どこか相談に乗ってもらえる部門があればいいのに」というお声を沢山聞いておりましたので、この部門ができたことが大変うれしかったです。でもまさか私自身がそこでお仕事をすることになるとは夢にも思っておりませんでしたのでご縁を感じております。
今は、ご相談対応の際にどれだけ先生方に寄り添うことができるかを考えています。

大村: 相談はどのくらいあるのでしょうか。

堂本: 平均すると、月に30件程度です。

大村: アカデミア発のこれまでにないようなユニークな研究を、臨床にもっていきたいというケースも多々あると思います。一つの相談の対応にはどれくらいの時間がかかるのでしょうか。

堂本: 内容によりますが、部門内検討で5、6回ほど訂正が入る場合もあります。

大村: 臨床研究の支援については、私もMARC(首都圏ARコンソーシアム)のセミナーなどを通して、その大変さや重要性を改めて感じています。松嶋さん、萩村さんは本業のモニタリング業務と兼任で、この臨床研究企画推進部門のお仕事をされているのですよね。

松嶋: モニタリングは、治験だけではなく特定臨床研究、倫理指針下で実施する試験でも必要ですから、まず、モニタリング担当者は、規制をしっかり知らなければなりません
また、リソースが限られており、かつ多種多様なアカデミアの臨床研究では、その研究で何を明らかにしたいのか、リサーチクエスチョンを理解した上で、どこまでの品質管理が求められるのかも考えてモニタリングを実施しています。
モニタリングを兼任していることで、臨床研究において、先生方がどの段階で、どのような問題にぶつかるか、どのようなところでエラーが発生しやすいかは、モニタリングの実施により把握できている部分があります。まだ、私自身、CRC(臨床研究コーディネーター)として臨床研究の実施を支援した経験もありますので、臨床研究計画書に基づき、臨床研究を適切に実施するためには、現場で対応する医師やその他の医療従事者等がどのような対応をしなければならないか理解できますので、これらの経験・知識も踏まえた上で、対応するようにしています。

萩村: 前職在職時に松嶋さんに声をかけられ、慶應にきて6年がたちました。それまでは製薬企業やCRO(医薬品開発業務受託機関)で22~23年、モニタリングを中心とした開発業務に携わっていました。
私が慶應に来た頃は、「モニタリングって何?」という質問が多かったのですが、最近は「こういうふうにやりたいんだけどモニタリングのやり方、合っていますか?」とか、「多機関共同研究で品質を確保してやりたいんだけど、どういうやり方があるかな」などと聞いてくださる先生が少しずつ増えてきました。
とは言え、やはり毎年新たな研究者が入ってくるため、臨床研究企画推進部門がよろず相談所になっているのは大変意味があることだと思っています。

大村: 三浦先生からお話があったように、以前は倫理委員会にかけるときのプロポーザルがプリミティブな状態で、いつまでたっても承認されないことがあったと聞いています。臨床研究企画推進部門が立ち上がったことによって、変わってきた点はありますか。

松嶋: 新規相談で面談対応した際、先生からは、該当する規制や研究デザイン、申請資料の内容について、最初に我々の懸念事項を説明したことで、問題点及び修正点が明確になったとの感想をいただいています。また、変更申請に関しても、本審査の前に必要な資料の準備状況を確認し事前対応することで、審査時間の短縮につながっている案件もあり、いくらかはお役に立てているのではないかと思っています。

萩村: そうですね。我々臨床研究企画推進部門に相談して倫理審査を申請し承認を取った経験がある先生は、その後、再び別の申請の際にもスムーズに承認が得られているように思います。

三浦: CRB(臨床研究審査委員会)の委員長として申し上げると、臨床研究企画推進部門がレビューした特定臨床研究は速やかに承認を得られています。そういう意味では、高いレベルの申請ができるようになったと思いますね。

大村: 長井さんは、データマネージメントと臨床研究企画推進部門に深く関わっておられます。今の状況はいかがですか。

長井: 私はデータマネージメントが専門で、臨床研究を包括的に見るということはありませんが、この部門ができた当初にはまだなかった、問い合わせのシステム等、仕組み作りのお手伝いできればということでこちらに参加しました。
データマネージメントに関する相談もありますから、現在はそうした相談に対応することが多いですね。

大村: データのクオリティーに問題がある場合、事前に助言することもありますか。

長井: 相談の段階でデータマネージメントの部分について、私から細かく指摘することは、あまりありません。試験の骨格を分かっていただけるような助言ができればいいのかなと思っています。