臨床研究企画推進部門

よろず相談所のように多種多様な相談内容に対応

大村: 実際に相談の内容で一番多いものは何でしょうか。また、それに対してご苦労しているところをも含め、現状を伺えますか?

堂本: 相談で一番多いのは、倫理審査の際にどういうインフォームドコンセントが必要か、どういう立て付けになるか、などといったものです。倫理審査で承認を得るために不足している点や、どのカテゴリーに入るのかなどについて整理をするのが私たちの仕事になります。

松嶋: 少し補足しますと、相談内容には3つあります。
一つ目は堂本さんが指摘の倫理指針、あるいは臨床研究法等各種規制を遵守した形で臨床研究をするための対応についてです。特に倫理審査関係の手順の確認、また具体的にその規制に合わせるためにはなにが必要なのかという確認が、最も多いように思います。
二つ目は、長井さんからのコメントにあったように、データマネージメントやアンケートを採るときに使うベンダーなど、どのように実施するのが一番効率的かという、オペレーションに関する相談です。
三つ目は少ないのですが、医薬品・医療機器や、各種医療アプリ等の開発戦略についてです。具体的には、開発を進めるためには、何が必要なのか、CTRにはどういう支援を求めることができるのか、という相談になります。これに関しては、CTR内にはさまざまな専門家がおりますので、関連部署とともに、研究者の要望を聴取した上で、協力して対応しています。
最近は3つ目が若干増えてきている感じがします。

三浦: 相談内容は非常に広範囲にわたります。高度な内容のものもあれば、私たちからすると、それほど難しいわけではない内容でひどく悩んでいる研究者もいます。こんなことを訊くのは恥ずかしいなどと思わず、相談に来ていただければと思います。
私たちは部外者に相談内容を漏らすことはありませんので、できる限り具体的に、こんなことをやりたいんだということを話していただければ、その方にとって具体的で有益な答えを出すことができると思います。

大村: 臨床試験や特定臨床研究をしたいときの、『よろず相談所』と考えればいいということですね。

三浦: はい。懇切丁寧な相談を心掛けていますよ。

大村: 実はCTRのホームページでは、臨床研究企画推進部門へのリンクが貼られており、そのページでは規制の問題などが事細かにアップされていますから、相談したいと思った人はまずこのページを見ていただければいいと思いますが、読んでもよくわからないという人もいるでしょうか。

三浦: FAQで解消できる疑問も多々あると思うので、今までの相談内容をできるだけ一般化して、相談前にご覧いただけるように整備しています。

大村: なるほど。相談者はまずFAQを確認し、ご自身の相談内容と類似他ものがあるか確認して頂くことが重要ですね。その他、臨床研究の支援について、何かCROとの関係についてご紹介出来ることはありますか?慶應に常駐されているCROもいらっしゃいますが・・・。

萩村: 支援相談は次から次へとやってきますが、我々CTRのリソースも限られています。今後はCROの協力なしでは、我々の研究は進まなくなるだろうと思います。そこでCROを信濃町キャンパスに誘致しようということになりました。
身近にあることで、気軽に何でも相談できます。一番の目的は、研究を早く立ち上げて早く進めるようにするための支援とサポートです。

大村: 慶應にもベンチャーを起業したいという先生が多くおられ、医学部でもベンチャー協議会という組織をつくっています。私もベンチャー支援の担当をしていますが、起業したベンチャーの先生方と話をすると「治験の相談に乗ってくれるところがない」というコメントもあります。実際にはCTRのホームページに、ベンチャー支援のページがあるのですが、学内でもあまり知られていないようです。
宣伝をし過ぎて相談の数が増えると仕事が回らなくなってしまうこともあるかと思いますが、そのあたりはいかがですか。

松嶋: 我々は臨床研究の進め方はよく分かりますが、ベンチャー支援になると、品質や開発戦略などが未知の場合が多いですね。どういう戦略をとれば事業として成り立つのかといったビジネスの知識がある者は、現在は企画推進ユニット内にはおりませんので、対応はできていません。

三浦: ベンチャーを含め、さまざまな企業体が研究開発を行うことは非常に重要なことで、その人たちがいないと研究が前に進まない、成果に結び付かないことがあると思いますが、私たちの部門が大事にしたいのは、研究責任医師が責任を持って研究を進め、最終的には安全かつ有益な成果をもたらすことだと思っています。

萩村: ベンチャーの相談を受けても、あるところからビジネスの話になって、IRB(治験審査委員会)を通すためにと言われると、利益相反なのか、責務相反なのか、よく分からなくなってしまいます。我々の責務はあくまでも臨床研究に関する相談に対応できればと思います。会社の戦略等といった相談は別の対応が必要かと思います。

将来は掘り起こしの作業から面白い研究の種を見つける

三浦: 臨床研究中核病院という立場から言うと、医師主導治験をどうやって遂行するのかは重要な観点になります。
単に待ちの状態でいるのではなく、「ご用聞き」というわけではないですが、少なくとも医師主導治験のシーズを把握、パイプラインを明確にし、出口戦略までつなげていくことを始めました。その中には当然ベンチャーやその後ろ盾になる企業も含むことになります。

大村: おっしゃるとおりだと思います。
ベンチャー支援と言っても、ビジネスを成功させる方策を考えるのは病院の使命ではありません。慶應発ベンチャーの場合だと、当然、慶應のPI(研究責任者)の先生が主体になって動くことになるでしょう。迷ったときには、この臨床研究企画推進部門を訪ねていただき、プロトコル作成や統計等、具体的な支援が必要であれば、CTR内の専門家に繋いでいくことが重要ですね。
この座談会の最初に、三浦先生から、臨床研究の活性化プロジェクトのお話がありました。この活性化プロジェクトの一環で、例えば、年1回ぐらいこの臨床研究企画推進部門の活動を学内に紹介するような機会を持つのはどうでしょうか。

三浦: 大村さんの提案は、面白いと思いますよ。一種のキャンペーンですよね。
通常は記録に残す観点からも、WEBを通じてやりとりさせて頂いていますが、敷居が高いと感じることがあるかもしれません。例えば毎年9月1日は「相談デー」といった企画をし、「思い浮かんだものはお気軽に相談下さい」という日を設けてもいいのかもしれません。

大村: 思いもかけないところに面白い種が見つかる可能性もありますね。

松嶋: 我々に寄せられる質問は様々ですが、初歩的な質問に関しては、ホームページのFAQを見ればある程度のことは分かる、という体制にしたいと思っています。
「相談デー」については、臨床研究企画推進部門に寄せられる相談がCTR内の複数の部門にわたることも多いため、臨床研究企画推進部門だけではなく、CTR全体の各部門で相談できたらよいのではないかと思います。

まずはFAQを整備し誰にとっても役立つ部門へ

大村: 現状を踏まえて、今後の目標を伺えますか。

堂本: 効率化のためにはFAQを整備して、先生方がホームページ上のFAQを通して相談内容を整理して頂く体制を強化したいですね。

土濱: 臨床研究企画推進部門は、個別の質問へお答えするのみならずCTR内の適切な部門・担当者に橋渡しするためのゲートキーパーのような役割も果たしているような気がしています。先生方の道を照らす灯台のような役割が果たせればいいですね。堂本さんのお話にもありました通り、基本的なお問い合わせがFAQに掲載されていれば、誰にとっても役立ちますので、その一番の基礎を整備して、研究者・先生方に寄り添っていかれたらと思っています。

長井: 私は、そのFAQをうまく先生方に見てもらえるような仕組みづくりに協力したいと思っています。

萩村: 仮に臨床研究企画推進部門のスタッフが3倍ぐらいに増えたら、先ほどの相談デーならぬ「春の臨床研究よろず相談祭り」(仮称)を開催し、私が全診療科をぐるぐる回って、これぞという研究があったら、「いい研究ありましたよ」と松嶋さんに支援候補として推薦したいですね。

松嶋: 先生方から寄せられる相談については、CTRの他部門の皆さまと協力関係をつくり、研究者の要望に対しどういう支援が一番適切なのかという判断ができるようなご提案ができるような組織にしたいと思っております。将来的にはCTRの自立化という課題もありますので、適切な支援に繋げたいですね。

三浦: 臨床研究企画推進部門には二つの意味があると思っています。一つは、個別の研究について、それを企画し、遂行し、推進していく。そういうミクロのマネジメントの中枢機能を担うという意味。もう一つは、慶應のみならず日本の臨床研究の企画立案をし、それらを進めていく。つまり臨床研究の枠組み全体について企画推進するという意味。
臨床研究活性化プロジェクトの中では、臨床研究についての5カ年計画を作り、それに基づいて学内の研究を進めて、計画どおりに進んでいるかどうかをレビューするための司令塔機能を設けるべきだと提案しています。今後、この臨床研究企画推進部門は、その司令塔のコアな部分を担っていかなければいけないと思っています。
臨床研究が慶應義塾大学病院において着実に進められるように、その一番重い荷物を私たちが担っていくという覚悟を持たなければいけないし、そのためには体制ももっと強化しなければいけない。
松嶋さんが言われたように、確かにいろいろな面での自立化というのは必要なのかもしれませんが、CTRだけの自立、慶應だけの自立化ではなく、最終的には日本全体の臨床研究、医薬品や医療機器の研究開発を進めるための、なくてはならない一部門をCTR、そしてこの臨床研究企画推進部門が担っていければ素晴らしいと思います。私は、それだけの人材が、この部門に集まってきつつあると思っています。より魅力的な部門にすることによって、さらに多くの人たちの関心を集め、研究支援がより一層進むということを目指していきたいと思います。

大村: ありがとうございました。皆さんが普段やっておられること、そして今後のビジョンまで幅広くお聞かせいただきましてありがとうございました。今後のますますのご活躍を楽しみにしています。


※今回の座談会はオンラインにて実施し、後日、感染予防対策に留意して集合写真を撮影致しました。