インタビュー 新・臨床研究推進センター長に聞く

個人の力が最大限発揮できる環境を作る

大村: 医学部・病院のアンケート調査というのも非常に重要だと思うのですが、一方で長谷川先生は昨年12月に推進センター内の皆様と一対一でお話しされたと伺っています。そこで見えてきた課題や、改善していかなければならない点、あるいは今以上に推進していきたいことがあればお話しいただけますか。

長谷川: 個々の面談は、本当に限られた時間でしたが、お話をお伺いして、二つのことに気づきました。
一つは皆さんがそれぞれの分野で、卓越した力をお持ちだということ。卓越した力とは、豊富な経験であったり、これから学びたいといういい意味での意欲であったりしますが、それぞれの方が高い能力をお持ちであることが非常によく分かり、本当にうれしく思いました。今後も皆さんとお話しする機会は定期的につくりたいと思っています。
もう一つは先ほどお話したとおり、皆さんが必ずしも同じ方向を向いているわけではないということです。それはどこの組織においても当然あり得ることだと思います。違うことを考えている人が悪いということではありません。お互いが大きなMissionを理解して、あの人は北東、あの人は北西を向いているけれど、全体の流れとして今は北に向いている、そうしたものが共有できればいい・・・この点が今後の課題なのかなと思いました。

大村: ワンチームとして動いていくということですね。それによって1+1が5ぐらいになるような組織をつくっていくということが必要だと感じます。
センター内には優秀な方が大勢おられるという話がありましたが、先生から皆さんに期待していることとかメッセージはありますか。

長谷川: 皆さんにお願いしたいことの一つは、「楽しく」仕事をしてほしいということです。ここでいう「楽しく」とは、やりがいをもって仕事をする、精神的な報酬を得ることができる仕事をする、という意味です。ゴールにたどり着いたとき、苦労して大変だったけど、本当にやってよかったと思えるような仕事を是非していただきたい。そして、そのような環境を整えるのが私の仕事だと思っていいます。

大村: 皆さんが同じ目標、同じターゲットに向けて連携がうまく取れるような体制ができれば、結果として楽しく仕事をすることに結びついてくるんだろうな、と思いますね。

長谷川: どういうときに人は精神的な報酬度が高いと感じるのか考えてみますと、ご自身が手掛けた、やってきたことが正当に評価された時だと思うんです。「これだけ苦労したんです」とか、「努力したんです」というところが認められるような状況にないと、なかなか楽しく仕事はできないんじゃないかと思っています。
みんなが同じ方向を向くということはもちろん大前提だと思うのですが、一方でやったことが正しく周りの皆さんに理解されることも大事でしょう。極端にいうと、直属の上司が部下の仕事をよく見ていて、事あるごとに「いいね」って声を掛けたり、「随分効率よく仕事できるようになってるじゃない」って言うだけでも、だいぶ違うんじゃないでしょうか。

大村: 非常に重要なご指摘だと思います。「楽しく仕事をする」ということは、別の表現を用いるなら「モチベーションを持って仕事をする」ということなのだと思います。

長谷川: 本来その人が持っている力を最大限に発揮できる、ということですね。

プライオリティを決めてタイムマネージメントを考える

大村: 小児科の臨床医として、副病院長として、臨床研究推進センター長として、さらに今は医療安全の仕事も兼任されているということで、かなりの責務を負っておられると思いますが、仕事のタイムマネジメントはどのようにされていますでしょうか。

長谷川: 時期によって、場所によって、あるいは自分のそのときの考え方によって、タイムマネジメントを変えることを心掛けています。誰でも新しい仕事に就いたときは、大体そこに割く時間が増えます。でも、そればかりやっていると他が疎かになるかもしれません。そこで、たとえば今はここにフォーカスすると決めたら、1カ月間は8対2くらいの比でやってみる。1カ月経ったところで、このままでいくのか、5対5にするのか、2対8にするのか整理し直します。これが時間によって変えるということです。また、場所によって変えるというのは、1日の中、あるいは1時間の中で、臨床研究推進センターの中で仕事をしていれば、センターが10割、外来で診療しているときは臨床が10割でセンターの仕事は0となります。そのときに自分がいるスペースや自分の心の持ち方によってその比を変えています。

大村: フレキシブルな対応を心掛ける、ということですね。

長谷川: フレキシブルともいえますね。なるべく流されないように自分自身でコントロールしています。

大村: プライオリティを定めて、それに合ったタイムマネージメントを常に考えているということでしょうか。
重責をたくさん負っている長谷川先生の場合は、好き嫌いに関係なく、プライオリティをある程度見極めた上で、「今、これをまず最重要でやろう」という感じで考えていらっしゃるんじゃないかと思います。

長谷川: 臨床研究推進センター長だったり、副病院長だったりと、組織の中で生きているのですから、自分の好きなことだけやっていればいいという考えは、私にはあまりありません。
ただ、自分の今まで長年やってきていること、好きなことをゼロにするのは非常に残念なので、意識的に、日曜日にはちょっと当センターの仕事は忘れて、小児内分泌学の論文を書こうとか、そういうふうにしていますね。

今後の課題は同じ目的意識を持って動けるかどうか

大村: これから数か月の間に、いろいろな形で再編が行われていくと思います。アンケート調査の結果を踏まえ、2022年10月頃には、着任後1年を迎えて改めてお話を伺う機会が頂けばと思います。
これから具体的に、組織・体制構築が進み、新組織の方向性が明らかとなっていくことを期待しています。

長谷川: 組織構築の上で重要な指標としては、①組織の大きさ、すなわち組織を構成する人員、そして②同じ目的意識をもって動くことだと考えています。 このことが、当センターのこれからの1年で最も重要な課題になると思います。自分たちの船が、今どの方向に向かって進んでいるのか、大きな流れをみんなで理解した上で、自分のやりたいことや、自分の分野の仕事を思いっきりやっていただき、船全体が正しい方向に向かっている、という状況に持っていきたいと思います。それが当センターの強さにつながっていくと思っています。

大村: 皆が同じ目的意識をもって取り組むためには、情報共有も重要ですね。実は、当センターの中でも、情報が全然共有されてない、何が課題となっているのかわからないと感じている方も少なくないと感じています。センター内に対してセンター長からの定期的なメッセージや、執行部で議論していることの途中経過を皆さんが共有できるような発信があるとよいと個人的には思います。

長谷川: 情報の共有についてもしっかりと取り組んでいきたいと思います。

大村: 最後に、臨床研究推進センターが関わる学内外の研究者の方々にも一言メッセージをお願いいたします。

長谷川: 研究者の方たちに二つのメッセージをお届けしたいと思います。
一つは、繰り返しになりますが、実際に研究をしている方々が、何を臨床研究推進センターに期待し、どのような点を改善してほしいか、是非積極的にご意見をお寄せいただきたいということです。
二つ目は、ご自身の手がける基礎研究を何とかしたいと思ったときに、是非「臨床研究推進センター」にご相談頂きたい、ということです。慶應・医学部、薬学部、看護学部の学生だけでなく、学外の研究者の皆様にも広く広報・発信し、研究者の皆さんにとってフレンドリーな組織でありたいと思います。

大村: 慶應医学部発のベンチャーなど、慶應医学部の先生方や学生たちの研究シーズは最優先で支援します、というようなメッセージも必要だと思います。また、若い研究者に門戸を広げることはとても重要だと思います。私自身も年1回学部生に対して、臨床研究推進センターやTRの業務、やベンチャーの仕組みまでを講義していますが、学生のうちから興味を持つ方達に対しては、自主学習など含めフレキシブルな体制を構築していくことも必要ですね。

長谷川: いろいろな課題はありますが、一つ一つ前進していきたいです。

大村: ぜひわれわれをリードしていっていただきたいと思います。本日は、お忙しいところありがとうございました。