臨床研究の現場から(首都圏ARコンソーシアム)

非医学部との連携によって新たなシーズが生まれる

大村:数日前、MARCの骨子を作った方と少し話をする機会を得たのですが、「MARCがここまで発展するとは思わなかった」と言われました。構成機関の数も10大学も集まればいいんじゃないか、ワーキンググループも2つぐらいあればいいんじゃないかと、その当時は思っていたとおっしゃっていました。それが今、それぞれ倍以上になっています。

三浦:慶應義塾大学も含め、どの大学も資金面・体制面で本当に悩んでいたんだろうと思いますね。科研費などさまざまな公的支援はあるとはいうものの、それがいつ切られるかわからない非常に不安定な研究環境にあり、しかも病院の経営を含めて医科大学、医学部の持っている余裕が非常に小さくなってきているという現状があります。そのため、「研究をしている暇があるなら診療を」といったような間違ったメッセージが出やすい環境になっています。そういうところで、研究をテーマにしたコンソーシアムが作られた。これは、現場で研究している方、あるいはその研究を支援している方々からすると待望の組織だったということが言えるかもしれませんね。

大村:MARCは、もともと構成機関と連携協力機関という2つの機関で構成されていました。昨今は、医学部以外の学部との連携が非常に注目されていますが、実際われわれも、昨年後半から連携協力機関の必要性と重要性に着目し、非医学部にもアプローチをしはじめています。この点について副島先生、いかがでしょうか。

副島:協力機関とは病院の機能のない機関を指しています。そうした機関では、自分たちの研究がどのようなものかがわからないまま研究していたところがありました。逆に、方向性は決まっているけれど、連携できる相手が見つからないとか、連携先を誰に聞けばいいかがわからないという研究者たちも大勢いらっしゃいました。われわれは、そういう方が研究している、もしかしたら非常に役に立つかもしれないシーズを積極的に見つけていかなければなりません。また、医者や医学部の先生たちと連携を持ちたいと思っている研究者と医学部の先生たちとの橋渡しをしていかなければならないと思っています。
実際、われわれはそういう大学や研究機関をいくつかピックアップしており、連携の可能性がある10校ぐらいにはすでに声を掛けています。お話しに行くと、どこからも「こういう連携を求めていた」というようなリアクションをいただいています。

今後はそういう形で連携協力機関と構成機関とをマッチングしていくことによって、革新的なシーズが生まれてくるポテンシャルは十分にあるのではないかと考えています。

大村:そうですね。医学部以外の学部を訪問しますと、さまざまなポテンシャルの技術はたくさんあるけれど、どこにどうアプローチしていいのかわからないというお話や、自分たちの研究がどのような形で医療に応用できるかという、入り口の部分が現実的にわからないというお話も伺いました。そういう非医学部の技術や研究成果を医学部の先生方と融合することによって、一つの新しいシーズが創出されて、それを先に進めていくということがMARCを通じてできる機会は、非常に多いように思いました。
研究の基礎のところは、非医学部の先生が中心になって進めていただき、医療への応用になると医学部の先生方が中心になっていくというようなハンズオンで動かしていくことができればいいですね。そうすることで、MARCをうまく活用していくことができるんじゃないでしょうか。

先ほど三浦先生からお話がありました、いろいろな成功事例を出していかなければいけないということに関してまず思うのは、シーズの発掘からそれをどうやって企業に橋渡しをしていくのか、あるいは臨床研究の土台をどうすれば企業とうまくつなげていけるのかといった成功例を出していけば、製薬企業等のいわゆるアカデミア以外のサポーターとの連携も期待できると思います。

三浦:入り口の問題と出口の問題の両方押さえていく必要がありますね。

将来的には、MARCでさまざまなシーズが育ち、出口に行けば製品が上市される、そうした一気通貫の流れになっていくのではないかと思います。
このように考えると、MARCというパイプラインをうまく使ってほしいということを、連携機関に対してもしっかりメッセージを出さなければならないし、どのようにこのパイプラインを通していくのかという戦略を組み立てていくことも、MARCの将来を考えるうえで、非常に重要になってきます。
また、企業にどうやって渡ししていくのかということも、もちろんあると思いますが、この世界には、当然のことながら、薬機法をはじめとして多くの規制がありますから、そこをうまくクリアしていくことが大事になってくると思います。今まではひとつの大学なり、ひとつの研究グループが、例えばPMDAなどさまざまな組織と個別に折衝してきましたが、今後はMARCからさまざまな情報が発信されるというようなことがあってもいいのではないかと思います。慶應義塾大学とPMDAの関係も重要ですが、MARCとPMDAや国立医薬品食品衛生研究所等さまざまなレギュレーションに関わる、しかも研究とリンクしている組織とも具体的な仕組みを作っていくことにより、MARCの活動の幅がずっと広がってくるのではないかと思います。

魅力あるシーズとなり得る「MARCブランド」

大村:MARCには現在ワーキンググループが4つあります。そのシーズを発掘するという目的で、今年10月、バイオジャパンに初めて出展しました。また、現在、MARCの認知度をアップさせるための計画も検討中です。
そこで、MARCを今後どのように発展させていくのか、展望についてお聞かせ頂けますか?

三浦:私は具体的なアクションをMARCの中で議論し、実際に進めていくことが必要だと思います。将来のことを今言うのは早いのかもしれませんが、やはり具体的な目標を設定して、それに向けて、それぞれの大学なり医学部、あるいは医科大学がどのようなアプローチをしていくのかという役割を明確にしていくことが必要でしょう。研究環境は厳しいものがありますので、まさにこのコンソーシアムに入っている大学すべてが、入っていて良かったと実感できる成果を出して行くということが大事なんじゃないでしょうか。
とはいえ、いたずらにMARCを大きくする必要はないと思っています。しっかりと地固めをして、確実に前進させることは大事だと思うのですが、考えてみればMARCと同じような団体は全国に幾つかあります。ですから、同じように活動しているグループの中から、その活動内容や活動方法について、学ぶべきことがあるのであれば、私たちはそれを参考にしつつ、バージョンアップしていけばいいと思うんです。今後はそういう各地域の組織との関係についても考えていくのもいいのかもしれません。

副島:2017年1月に行った最初のキックオフで、私は「MARCブランド」を提案しました。その意図としては、今回のバイオジャパン出展も含めて、何かひとつしっかりとした成功事例を示すことでプラスのイメージ出していけば、将来的に企業などとの連携がスムーズにいくでしょうし、逆に企業から依頼が来るようになるだろうと考えたからです。
また、臨床研究をしようという時に、MARCに声を掛けていただき、われわれが持っている支援機能を使っていただくことも将来的はあるべき姿かなと思っています。それをしっかりやっていくためには、今あるワーキンググループの体制整備が必要です。教育人材育成のワーキンググループも動き始めていますから、MARC全体の力を慶應義塾大学だけではなく他の大学も含めてステージアップすることを目指していくのが重要かなと思っています。

佐谷:最初に「MARCブランド」という目標が設定されたのは非常に良かったですね。
最近、私は慶應義塾大学のシーズと呼ばれるよりも、MARCのシーズと呼ばれるほうが、何か誇り高い気がするようになりました。皆さんがこのように思うようになってくれば、コンソーシアムを作ったことは非常に大きな意義があったのでないかと思います。パイプラインが100あったとしても、製薬会社などから見れば、ものになるものは1つか2つぐらいしかありません。しかし、MARCという組織の中には大きなシーズがたくさんあります。さらに、近い将来、異分野融合も含めると、プラットフォーム技術やモダリティーに関するシーズもどんどん増えていくでしょう。

そうなれば、企業はMARCのシーズに対して大きな魅力を感じることになるのではないでしょうか。今後はそうした集合体を維持していくことが重要で、そのためにわれわれは今、法人化という議論をしています。法人化するのがベストかどうかはまだわかりません。しかし、MARCという組織が常にいいシーズを供給できる集合体として維持されるためには、法人化をはじめとして何らかの組織を構築することは必要だと思っています。

三浦先生が言われたように、組織というものは地固めをしていくと、その後には疲労が出てくると思います。今は積極的に参加していただいているけれども、それがだんだん義務になり、徐々にこの組織自体が古くなってくるという恐れもあります。それを回避し、MARCを常に活性化していくためには、やはり何か新しいテーマや事業をブーストしていく必要があると思うのです。ワーキンググループも異分野融合もそうですが、新しいテーマを皆で一緒に考えることによって、組織を継続的にリニューしていく必要があるんじゃないか。そのために、今、慶應義塾大学のTR部門が中心になって、MARCの構築、維持に対して貢献してくださっていることは、非常に大きな力だと思っています。

志がブレない組織を維持する

大村:ありがとうございます。最後に何か一言お願い致します。

三浦:MARCは慶應義塾大学が最初にいろいろと汗をかいてでき上がったという経緯があるのは事実です。しかし、先ほどの話ではありませんが、どうやってこのMARCから慶應色を抜いていくのか、これは非常に大きなテーマです。慶應義塾大学の中でいろいろと取り組んでいる部分はあるのですが、それとは別に、MARCはMARCでしっかり自分たちの目標を決めて、自分たちの力で歩んでいくほうが健全だという気がします。

副島:MARCに対して研究資金が下りるような体制まで持っていければいいと思いますね。現状はそうはなってないので、少なくとも慶應義塾大学からそうした資金の流れをしっかりつくっていく。それは、われわれがやらなければならないことだろうと思います。

大村:いろいろな研究や新たな事業に対して、MARCとして研究費の申請ができるようになると、大きく変わってくるんじゃないでしょうか。
今、臨床研究のワーキンググループでも、レジストリーなどさまざまなことを検討していますが、企業との連携を模索することに加えて、国に対する働きかけも考えていこうという動きが出てきています。

副島:MARCは大学の集まりですから、企業から資金を入れるのが一番簡単なのかもしれません。ただ、利益が優先してしまうととてもぎくしゃくした組織になってしまう可能性もあります。革新的なシーズを出そうといった志がなくなり、単なるCROになってしまう可能性があります。そこはしっかり注意しなければいけないですね。

大村:そうですね。

三浦:MARCをどういう位置付けにしていくのかは、大きなポイントですね。仮に研究をMARCが主体的にやるとなると、そうした組織が必要になり、非常に大ぶりな、言ってみればひとつの企業体のようなものになってしまいます。それを目指すのか、あるいはそうではなくて、主体はそれぞれの大学が持っていて、MARCがバックアップしていくという形にするのか。大きな分岐点のように思います。

佐谷:各大学が一緒に動けるひとつのプラットフォームを持っていると、そこでの言語は一緒なので、いろいろなものが非常に大きなスケールで解析しやすくなります。恐らく、次の時代にはビッグデータなどをMARCである程度統一的に扱うようなことも起こるでしょう。それは革命です。3万5000床を超えるベッド数を有し、それらを一つのデータとして共有できるような組織など日本にはありませんからね。そういうものができてくるときに、今、両先生が言われたように、単なる一つの団体ではなく、プラットフォームも共有して各大学が自由に研究できるようなものにMARCがなっていってくれたらいいと思っています。

MARCはますます発展していきますので、これからもTR部門の皆さんをはじめ臨床研究推進センター内でMARCを担当している人たちにはいろいろ負担をかけます。しかし、全国に知られた組織を構築することができたのは全員の誇りです。これからもぜひご尽力いただければと思っています。

※1:MARCのミッション・ビジョン
ミッション:アカデミア発の基礎研究の成果を実用化し、いち早く患者さんやその家族のもとに届け、健康長寿社会の実現を目指します。
ビジョン:首都圏の私立大学をはじめとする臨床研究機関がMARCを核として連携・協力関係を結び、ネットワーク内の研究資源(人材・設備・情報)を有効活用し、国際的に貢献できる持続可能な体制を構築します。

※2:ワーキンググループ(WG)
MARCの重要な取り組みの1つとして、WGを設立し、具体的に課題を解決すべく議論を行っています。現在、下記の4つのWGが動いています。

1.体制整備WG
2.シーズ発掘WG
3.教育・人材交流WG
4.臨床研究WG