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長谷川奉延教授(2025年4月1日より名誉教授)の最終講義「信濃町で診療・研究・教育に携わる皆様と一緒に理解を深めたいこと」が2025年3月5日(水)に東校舎2階講堂にて開催されました
本最終講義は、長谷川先生が2025年3月末までセンター長を務められた大学病院臨床研究推進センターの主催で行われ、大変多くの教職員が現地とオンラインで参加しました。
開講にあたり、医学部長の金井隆典先生より長谷川先生のご略歴がご紹介されました。
長谷川先生は、弘前大学医学部卒業後、慶應義塾大学医学部小児科に研修医として入職された後、米国スタンフォード大学小児内分泌科に留学、一度慶應に復帰された後、再びデューク大学内分泌代謝内科、テキサス大学内分泌代謝内科へ留学されました。2013年に慶應義塾大学小児科学の教授に就任された後、副病院長、医療安全対策室長・医療安全管理部長、2021年には臨床研究推進センターのセンター長と、病院の管理職を歴任されるなど、慶應義塾大学医学部、病院に多大な貢献をされてきました。
先生は小児科学領域において、内分泌疾患の分子病態をテーマに、特に遺伝学的アプローチで世界に先駆けてさまざまな疾患の病態を解明し、また新しい疾患単位を確立されました。現在では分子遺伝学は非常に親しみ深い学問ですが、長谷川先生は30年以上も前から臨床医学に遺伝学を統合され、その研究成果は『Nature Genetics』や『The New England Journal of Medicine』をはじめとした医学雑誌に掲載されてきました。また、医学教育の面でも多大な貢献をされ、これまでに「Best Teacher Award」を14回受賞されております。
※長谷川奉延先生のご略歴、研究分野・研究テーマ、ご著書等は、「慶應義塾研究者情報データベース」よりご確認いただけます。
https://www.k-ris.keio.ac.jp/html/100004920_ja.html
「Best Teacher Award」14回受賞の長谷川先生が最終講義に選んだタイトルと「Take Home Message」
長谷川先生は最終講義で「何を話すか?とても悩んだ」そうです。
長谷川先生は、基礎研究においては、小児科学教室の石井智弘准教授と共同で、恩師の松尾宣武先生の研究を引き継いでこられました。また、現小児科主任教授の鳴海覚志先生をはじめ、小児科学教室内分泌代謝グループの先生方と、MIRAGE症候群など教科書に新しい1ページを付け加える研究・論文発表をされてきました。
多くの偉大な功績を残しながら、長谷川先生が最終講義に選んだタイトルは「信濃町で診療・研究・教育に携わる皆様と一緒に理解を深めたいこと」です。
医学部の「Best Teacher Award」を14回も受賞された長谷川先生の講義の特徴の一つが「Take Home Message」ですが、最終講義のTake Home Messageは、「診療における"Patient education"と教育における"人を育てる"ということを学びなおしたい。両者の基本はノンテクニカルスキルのうちとくにCommunicationである」です。
診療において最も重要なノンテクニカルスキルはcommunication~ヒトとヒトの間の情報伝達~
長谷川先生は、「信濃町は広い意味で診療と研究と教育をするところだ」と最初に示されました。
信濃町で診療する医師は、誰でも優れたあるいは良い臨床医になりたいと思っているはずです。長谷川先生が考える「優れたあるいは良い医師」とは、「患者・家族、医療従事者、社会、この三者が高い満足度を得られるような医療を提供できる医師」のこと。「優れたあるいは良い医師になるには、テクニカルスキル(知識と技術)と、ノンテクニカルスキルの両方が大事だ」とお話しされました。
ノンテクニカルスキルは医学部でも医師になってからもほとんど習うことはありません。しかし、意識すれば誰でもスキルアップできます。
「診療における最も重要なノンテクニカルスキルは、間違いなくcommunication。ヒトとヒトの間の情報伝達です」と長谷川先生は強調されました。
診療ー「Patient education」におけるCommunication
本講義では、診療におけるPatient educationを考え、長谷川先生が培われてきたPatient educationのコツを丁寧に教えてくださいました。
長谷川先生がお考えになるPatient educationは、患者さんの自己管理能力を高め、それにより患者さんが適切な行動をとれるよう、行動変容を起こすことができるようにサポートすることです。その主役は、やはりcommunication、ヒトとヒトの間の情報伝達です。
長谷川先生はPatient educationのコツとして、1)配慮:聴く・翻訳・キーワード・状況に応じた調整、2)理解度の確認、3)行動変容の確認、4)Beyondの4つを挙げられ、患者さんの理解度の確認や、行動変容を確認するためにご自身が実践されてきた声かけなどのコツをお示しくださいました。
教育ー「人を育てる」におけるCommunication
長谷川先生最終講義の「Take Home Message」の一つが、「人を育てる」です。
長谷川先生が考える「人を育てる」とは、医療従事者を育成することにとどまらず、育てられる人の「問題解決能力を高める」ということです。その基本もまた、Patient education同様、communicationです。
育てる側が意識すべきこととして、1)Must & Contraindication、2)ファシリテーター、3)ロールモデル の3つを挙げられました。なかでも、ファシリテーターとして話を促進するために、上下関係を適度に崩すことの重要性や、人を育てることができたかどうかを確認する方法について具体例とともに教えてくださいました。
講義の後半に「Take Home Message」に戻り、長谷川先生は「今日は皆さんと一緒にノンテクニカルスキル、とくにcommunicationへの理解を深め、私自身も自戒の念も込めてPatient educationと人を育てるということを考えさせていただきました」と締めくくられ、続いて「A Lot of Thanks」として多くの方々へ感謝のお言葉を述べられました。
最後はゆかりのある先生方より温かいお言葉が贈られ、長谷川先生へのこれまでの感謝の気持ちとして、花束が贈呈されました。
※なお、慶應のアカウント(keio.jp)を持っている方は、長谷川先生の最終講義を、慶應義塾大学医学部・医学研究科のウェブサイトから視聴可能です。
keio.jpアカウントでログイン後、レクチャーアーカイブのメニュー「その他」「2024年」からご覧ください。
※長谷川奉延先生、鳴海覚志先生 関連記事
Nature Genetics
https://www.med.keio.ac.jp/spotlight/2024/6/58-160111/index.html